ShortStory(4)

電話越しに聞こえる彼女の声は、私の手前、抑えてはいるものの、どこかうれし気だった。招かれた仲間の一人とはいえ、○○の実家で正月を迎えることに特別の思いがあるようだった。彼女に思い切って○○の本当の気持ちを伝えようか。○○にはその気がない、止めるなら今のうちだと。そうすれば、片思い同士、彼女と私は対等になる。失恋の痛手に沈む私には、甘い誘惑だった。まして彼女の好きな相手が○○となればなおさらだ。しかし、今さらそんなことを言ってどうなる。彼女は、私の嫉妬としか思わないだろう。私がそうだったように、恋の行方は自ら確認するしかない。例え残酷な結末であっても。電話の向こうからは相変わらず、にぎやかな話し声が聞こえてくる。パーティーの準備が進んでいるらしかった。電話を通した二つの世界、彼女がいる世界と私がいる世界は本当につながっているのだろうか。その間には底知れない、深い穴があるようだった。彼女も遅かれ早かれこの深い穴を覗くことになるのか、それとも…。その時、空いている右の耳に風の音が聞こえた。ヒュー、ヒュー、ヒュー。夜の街を雪が舞い、飛び交う光景が浮かんだ。会話が途切れた。彼女のこれから先の運命は知らない。が、今は彼女を電話の向こう側の世界に帰して上げよう。彼女に似つかわしい、日の当たる世界に。じゃあ元気でね。よい正月を。うん、あなたも。こんな時って陳腐な言葉しか出ないものだ、と思いながら電話を切った。本当はいつまでも彼女の声を聞いていたかったくせに。ガチャン――。乾いた無機的な音がして、精一杯の優しさがこもった彼女の声と背後から聞こえていたざわめきが途絶えた。独りだ、と思った。彼女を失った悲しみが、どくどくと吹き出てきた。悲しみは一瞬にして体中を満たすものであることを生まれて初めて知った。風の音に混じって、かすかに除夜の鐘が聞こえた。一年が終わった、そして彼女とも…。(完)

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