奥さんゴメンナサイ~VS福岡
1 月 5th, 2012
今更ではあるが、昨年の12月3日にキンチョウスタジアムに行った。
リーグ最終戦ということもあり、最初から行く予定ではあったが、図らずもセレッソの一時代を築いた名将・レヴィー・クルピの最後のリーグ戦にもなったのだ。行かないわけには行かないだろう。
という訳で、新幹線の予約をしたものの、信号やら渋滞やらに引っかかったりで、スペースワールド駅からの列車を一分差で乗り過ごし、それが止めとなって新幹線に乗り遅れるという大失態。
一本後の自由席で新大阪に到着したものの、最初のミスが精神的に響いたのか、大阪、天王寺での乗り換えもしくじってもりもりと出遅れ、結局楽しみにしていたフードコートでの食い倒れもごく僅か。
定番のホルモン丼の後にビールのお供として幾つか買おうとしたのに、わなかのたこ焼きと唐揚げ(サルサソース)だけしか食えなかった。
わなかのたこ焼きの横で売ってた、みなせんのいか焼きも買おうとしたのに……一人で作っていたのでほとんど客が流れず、キックオフまで20分を切ったところで諦めざるを得なかったのは痛すぎだった。
冷めかけたたこ焼きと唐揚げをビールで流し込み、戦闘準備を整えたらあとは試合に集中!
勝利をクルピへの餞とするために選手達の気合も入っているのか、モチベーション不足気味の福岡DF陣を翻弄し、攻め立てるばかり。
辛うじて抵抗を続けていたものの、緩慢な守備で守りきれるほどセレッソの攻撃力はヌルくもなく――前半10分という早い時間帯に意外な選手がネットを揺らした。
CKの攻防からのセカンドボールに迷いなく右足を振り抜いたのは、負傷したシャケに代わってこの試合で右SBに起用された康太(藤本#4)!
右足からの強烈な低い弾道で一直線にゴールを射抜いたセレッソが先制すると、追加点を狙ってさらに攻め立てる。
しかし、圧倒的に攻め立てるセレッソにいつしか生まれた、いつでも取れる、という油断を戒めるかのような事態が起きた。
左からの苦し紛れのアーリークロスを処理しようとした大海が、濡れた芝に足を滑らせて倒れたのだ。
普通ならばなんでもないクロス――だが、処理を任された大海が転んでしまい、フリーで受けた城後(福岡#10)の前にはジンヒョン一人だけ。
コースを限定しようにも、クロスを受けた本人すらも驚くほどに体勢十分な相手を前にしてはさしものジンヒョンも打つ手なしで、前半32分に同点に追いつかれてしまう。
だが、この望外の1点で行ける、と思ってしまったのだろう、それまで徹底的にラインを低く保ってきた福岡が前掛かりに、運動量を押し出した攻めを繰り出してきたことで状況は変わってしまった。
確かに11年のセレッソは前からの激しいプレスに弱かった。
完敗を喫した神戸やACLの全北現代との戦いも、激しいプレスに持ち味のパスワークを殺されての自滅という側面もあった。
だが、福岡がそれをやるにはあまりにCBのスピードが不足していた。
意気込み、前掛かりになったところで左に抜け出したボギョンから出されたパスを、キヨが中央浅めの位置で受ける。
ワンステップ、ツーステップと振り回し、置き去りにするかのように二人の間を抜け、三人目が詰め寄ったところで右の一閃。
失点から僅か3分。信じられないような軌道を描いて曲がって落ちた、まさに『ゴラッソ』と呼ぶより他にない美しいゴールで突き放した後は、一度セレッソが見せた弱みを突こうと攻めるべきか、はたまた、これ以上傷を深くしないためにも守るべきか――その判断を見失った福岡を徹底的に屠るだけ。
開いたスペースに走り込んだ健勇のシュートのこぼれ球を冷静に左足で流し込んだボギョンの3点目が40分に決まると、前半終了間際には、U-22代表選ですっかり運動量を活かした潰し屋として覚醒した螢が隙を見ての飛び出しからのパスを出し、エリア内で受けた倉田が倒されてPKを得る。
これを決めて前半終了時に4-1という圧倒的な展開ではあるが、セレッソはまだまだ止まらない。
後半5分、右で受けたところで康太が選択したのは中央のスペースで待つボギョンへのパス。
シャケであればさらに前で待つ健勇へのアーリーだったかもしれないが、シャケに比べてクロスやパスの精度ではやや落ちる康太の選択は最短距離での得点チャンスより確実性。
ボギョンから中央に張る健勇という読みだったのか、前に出てくる福岡DF陣ではあったが、ボギョンが見ていたのは県有をオフサイドに嵌めようとすることによって生じる広大なスペース、そして、左サイドでタイミングを計っている、クルピが生み出した“3シャドー”の一人の動きだった。
右→中央→左と流れるようにピッチを斜めに走るボールと、その軌道に垂直に走り込むシャドーの動き――お手本のようなダイアゴナル・ランを見せた倉田の行く手を遮るものは存在せず、倉田の悠々と決めたゴールによって5-1。
レンタルバックが囁かれる倉田が後半早々に見せたサクラッシュの歓喜にサポーター達が湧き返り、ゴール裏から起きる「クラタ・セレッソ!」コールが弾ける中、ほとんど同じ光景がピッチ場で生み出される。
ハーフウェイライン付近でカットしたボギョンからの縦パスを受け、中盤のスペースに飛び出したタカ(扇原・#2)が左前方に生まれたスペースに送ったパスをフリーで受け、丁寧に流し込んだのは……健勇!
デジャヴュと見間違うような光景に、思わず倉田か、と思ってしまうほどの見事なダイアゴナル・ランからのゴールでさらに突き放すと、クルピは最早何をしたらいいのか判らない福岡をサンドバックにするかのような采配を見せる。
後半22分にハットの掛かった倉田、そして、格段の成長を見せたものの、カードを貰ってしまったタカを迷いなく村田と黒木という、期待の、しかし出番が限られていた二人に代えたのだ。
能力は間違いない、しかし、僅かなボタンの掛け違いで出場機会が限られていた二人はそれまでの鬱憤を晴らすかのような躍動を見せ、福岡の意地を容赦なく受け潰し――後半32分には右からキヨのショートパスに走り込んだ村田がGKをも躱してもう一点を叩き込んで今季初ゴールを決めるというおまけも付ける。
しかし、「これで満足するな!さらに貪欲にゴールを狙いに行け!攻めて、ゴールを決めてこそフットボールは楽しいんだ!」――五年という長きに渡って育て上げた教え子達、サポーターを含めた家族達に最後の言葉を託すかのように、クルピは休むことなく攻め手を見せ――リーグ最後の采配として、健勇に代えて播戸を投入する。
この攻めっ気たっぷりの采配に沸き立ち、更なるゴールを期待するサポーター達の歓声と忘我の溜め息がスタンドを揺らし、今か今かと雰囲気は高まるが、残念ながらゴールはここまで。
7点も取っておいて「残念ながら」と言うのは我ながらちょっとどうかと思うが、スタジアムを満たしたゴールへの期待はあと2、3点は取れたというものであり、実際作り出したチャンスはそれだけあった。
ゴールの歓喜、テクニックへの歓声、惜しくもゴールを逃したことへの悲鳴――その他諸々をひっくるめて感じる、フットボールの醍醐味を味わいつくさせてくれた一戦はあっという間に終わりを迎え、セレッソはクルピとの最後のリーグ戦を最高の形で締めくくることが出来た。
クルピと同じくこの日を最後にスパイクを脱ぐ福岡DF・田中誠(福岡#5)への両サポーターからの「マコ・タナカ!」コール、そして、涙とともにピッチを一蹴するクルピに向けられる「レヴィー・セレッソ!」コールを受け、しんみりとするキンチョウスタジアム。
だが、涙は似合わない、とばかりにクルピが繰り出した第一声は「オクサン、ゴメンナサイ!」
やっぱりやったなAZUKI親父ッ!!
AZUKIという前科があるから、何かやってくるとは思っていたが――どこまで大阪に染まっているんだ、このおもろいおっさんはッ!!
これはまた大阪に戻ってくる――いや、また戻ってきてくれ。
クルピのフットボールに魅せられた俺達は、ちょっと髪の毛が寂しい、奥さんと家電屋のポイント、そして日本食が大好きな、ちょっと頑固だけどホンマにおもろいおっさんがブラジルから帰ってくるのを待っている。
ありがとう、そして、また逢おう……クルピ。