その475 『春琴抄』―主役を支配する存在―
『葵の女―川田順自叙伝』の続きを書くつもりでいたが、その間に『春琴抄』の私の中での解釈に進展があり、それを突き詰めていたら1ヵ月以上経ってしまった。まだ最終的な詰めまでは行っていないが、その構造についてはある程度見えてきたので、とりあえずそれを書いてみたいと思う。『葵の女―川田順自叙伝』については第2回で『幼少時代』
との絡みを書くつもりでいるが、これについても少し進展があった。特に「おふく」さんと「おきん」さんという名前について。「おふく」さんは言わずと知れた谷崎の初恋の人だが、谷崎の友人の証言や中河与一著『探美の夜』
などを読むと、どうも途中からの谷崎の態度が冷たすぎる。その謎が見えたような気がした。『探美の夜』のおふくさんは2名のおふくさんを意図的につなげたのかもしれない。
おっと、続きはまた後日ということで、今回は『春琴抄』ね(^^)
前回の日記以降、ツイッターに延々と『春琴抄』についてつぶやいていた。つぶやきながら、調べたサイトをはてなブックマークに上げていった。まずはそれらを見ていただきたい。
お湯かけ事件の展開に直接つながる菊池寛『下郎元右衛門―敵討天下茶屋』-陰陽師的日常という記事を発見して、菊池寛著『仇討小説全集』の該当小説を読む等、大きな発見はさまざまあったが、ターニングポイントは、春琴が時々「顔色」を変えることに気づいたことだった。ツイッターでは2回と書いているが、実際はもう少し頻繁に顔色を変えている。この「顔色を変える存在」がすべての悲劇の元だった。
そこで、顔色を変えたシーンをいくつか挙げてみる。
- 佐助と結婚させられそうになった時
- 家が貧しいために白仙羹を一と折でお目こぼしを願った弟子の話を聞いた時
- 梅見の宴で利太郎に手を引かれたか何かがあった時
これらの顔色は、いずれも春琴に憑依する存在によるものだ。
顔色については、あらかじめ伏線がしっかり張ってある。当時の旧家に育った男女の見た目について論じた部分だ。若い男女のことを論じているようにみせて、実は若い人と中年以降の顔色の違いをあらかじめ読者に示しているのだ。
その時ふと疑問に思ったのが、梅見の宴の時、佐助はあれだけちょいちょいお酒を注がれながら、別室で食事をして、食後も呼ばれるまでのつもりで待っていたことだった。書かれ方から言って、どう見ても春琴が狙われているとしか思えないではないか。それなのに佐助はのんびりと待っていたのだ。これはおかしい。
ここで菊池寛の作品が生きてくる。つまり、佐助はお酒を飲みすぎてしまったのだ。ただ、春琴がセクハラされたというのは違うと思う。佐助が「顔色でそれと悟った」のは、佐助が来るのが遅いので、少し離れていた「春琴に憑依する存在」が慌てて止めたのだ(逆に言えば、佐助を支配する存在は、利太郎が春琴を連れて行くことを望んでいたと考えられる)。
私の考えでは、鵙屋時代の春琴には春松検校他が、佐助には「一番下の妹の乳母」他が憑いていたのではないかと思う。それらの組み合わせが流動的に推移しながら、梅見の宴からお湯かけ事件で大きく変わるのだ。
その流れをつかむのに決定的だったのが、船場の御霊神社を見つけたことだ。佐助が失明した時、春琴に対して「御霊様に祈願をかけて朝夕拝んでいた効があった」と説明していたところから見つかったのだが、『夢の浮橋』にしても『瘋癲老人日記』にしても、大黒様と恵比寿様系統が、最後に天児屋命と一体化して終わる。この境内の図を見れば、誰が東宮かすぐにわかる。梅見の宴の総大将は東宮だ。また、「末社」には松ノ木神社と大黒社がある。この写真を見れば、その意味が一目でわかるだろう。春琴と佐助の墓のつりあいと同じなのだ。さらによく見ると、「文学」というところにしっかりと「春琴抄」と書いてあるではないか。このサイトを見つけた時は本当に嬉しかった。つまり、梅見の宴では、東宮が末社を引き連れて春琴の手を引きに来たのだ。
「鵙屋春琴伝」には、春琴が「一番下の妹の乳母」に故意に失明させられ、佐助は「偶然」(佐助が春琴に言うには「御霊様に祈願をかけて」)見えなくなったと書かれている。この小説の登場人物にとって、自然に眼が見えなくなるのと、故意に見えなくするのでは価値が大きく異なるのだ(とはいえ、当時の佐助の中身と針箱の持ち主を考えると、佐助の「祈願の功があった」と言うのもまるきりの嘘とも言えないかもしれない)。私が読んだ限り、今のところ「自然に」眼が見えなくなったとはっきり言えるのは、鴫沢てる勾当だけだ。この人の眼が見えなくなったのは、たぶん雲雀が飛んで行ったまま帰らなくなった翌月、7月の24日だと思う。このあたりは『古事記』の記述を自分の誕生日と重ねたと思われる。『古事記』は谷崎の一連の作品を通して影響を与えていると思われるので、青空文庫の現代語訳古事記をあらためてじっくり読んでいる。








