その343 奇縁まんだら―佐藤春夫の回(その2)
5月12日の『奇縁まんだら』は、佐藤春夫の第2回だった。
この回は、千代夫人と佐藤春夫のほほえましいエピソードで始まった。千代夫人が
「水道がこわれたのを直しに来ているから、見てちょうだい」
と呼びに来たところ、佐藤春夫がいとも気軽にひょいと腰を上げていそいそと台所へ行ったという話だ。で、
「ああいうことをさせておくと、喜んでる。好きなの。時計しまっておきなさい」
と千代夫人が筆者に言うというものだ。
このエピソードは、『つれなかりせばなかなかに』にも出てきた。
千代夫人のこういう話は、谷崎と結婚しているときにもあった。
ラブレターズでも何度か出てきている高木治江著『谷崎家の思い出』の中の、谷崎が具合が悪くなったときの話だ。彼女が谷崎から
「お千代に言って、薬と水差しを持って来ておいて下さい」
と言われ、何病とも言わなくていいのかと戸惑ったとき、千代夫人は
「病気の時ほど扱いやすいおやじさんはないのよ。とにかく、頭痛でも腹痛でも薬はアスピリンでいいんだし、食べものの苦情は言わないし、平素読みたい本をだまって読んで、その後ぐっすり寝ればすうっとするんだから、病気の時が一番気を遣わなくてすむのよ」
といい、全くその通りであった。というものだ。
千代夫人の人扱いのうまさのよくわかるエピソードだ。
続いて、例の小田原事件から和田青年の件、そして妻譲渡事件までの顛末へと話が進む。最後はその和田青年のその後で締めくくられた。
なお、和田青年の件等、今回の記事に出てくる内容についてはその312、313も合わせて読んで欲しい。
ところで、途中、小田原事件のあたりで北原白秋の2番目の妻との離婚事件に触れていた。瀬戸内晴美著『ここ過ぎて―白秋と三人の妻』に出てくる話だが、谷崎はこの2番目の妻に頼られて、北原夫妻をさっさと離婚させてしまった。これは北原家と2番目の妻とのいざこざから起きた事件なのだが、北原白秋は全く別れたくなく、この2番目の妻も後で妙な具合に谷崎の名前を出したりしたものだから、北原白秋からは恨まれるし、谷崎はすっかり彼女のことを嫌いになってしまった。
谷崎はこの件で、後々までもう二度と他所の夫婦の話に口を挟むまいと決心するのだった。







