その288 『うああ哲学事典』
須賀原洋行著『うああ哲学事典』を読んだ。この作者は、モーニング上で『気分は形而上』という哲学漫画を書き、その中で特に奥さんのことを書いた実在OLシリーズが大ヒットした名古屋在住の漫画家だ。
先日ふとしたことで久しぶりに『気分は形而上』を思い出したところ、知人にこの本を紹介された。
この漫画は、有名な哲学者の代表的な理論を、「つまりこういうことです」という感じでわかりやすく書いている。で、最後にその哲学者の似顔絵と共に作者の解説が入る。
最初は初めから通して読むつもりで読み始めたが、挫折しそうになった。漫画でわかりやすく書いてあるといっても、そこはやはり哲学なので、そういう読み方は無理があるようだ。で、目次を見て面白そうなところを拾って読み始めたら、はまった。
その中で、『フッサールの「エポケー(判断停止)」』には、なるほどーと思った。
昔は日常(ケ)と祭などの非日常(ハレ)がはっきり区別されていたのだが、今は常に刺激を受けつづけているため、疲れてしまう。そこでいったん物事の価値のあるなしなどの判断を停止してみると、頭がスッキリして、却って新しい発見があったりわかりあえたりするということらしい。
これを谷崎に当てはめてみると、
『蓼喰う虫』は、モデルの状況が途中で変化したために前半と後半で追うものが異なってきているが、作者が余裕のある状態で書いているためか、最後には傑作にまとまっている。
『細雪』は戦争中で発刊できない状況の中、夫人の姉妹との日常生活という「ケ」を、ひたすら書き続けている。
いずれも、とりあえず流してみようというある意味「エポケー」が生み出した傑作なのかなと思った。 特に『細雪』の快さというのは、読む人にとっては「ハレ」としか思えない優雅な生活に、何の判断も加えずにただひたすら没入できるというところにあるように思う。だからこの作品が戦争直後の人々の疲れを癒し、大ヒットしたのだと思う。







