その137 『夏菊』
仕事に使う機械を設置するために部屋を片付けていたところ、ダンボールの中から谷崎潤一郎関係の本が出てきた。その中に、『谷崎潤一郎全集第14巻』があった。たぶん神田の古書店で買ってきたものだろう。奥付は昭和四十八年十一月普及版発行となっていて、検印のところには「潤」という落款の押された紙が貼られ、その上を、検印の紙に触れないところに1点糊をつけたパラフィン紙で保護してある。
谷崎潤一郎全集の中で、特にこの本を購入したのは、この中に『夏菊』という、中断された小説が入っているからだ。
『夏菊』というのは、昭和九年、松子夫人と結婚した年に新聞連載した小説だ。
松子夫人は、大店の御寮さんだったが、店が傾き、その他いろいろなことがあって離婚した。その頃のことをモデルにした小説だった。当然誰が誰であるかははっきりしていたし、債権者から隠していた資産の話も出てきて、当事者にとってみればたまったものではなかった。また、連載が続けばどういう話が出てくるかも、話の中に引かれている伏線でわかる。
当然のことながら反対が出て、これからというところで中断された。この小説は戦後に『細雪』という洗練された形で復活するが、そこには倒産やその後に出てくるはずだった愛憎問題はすっぽり抜け、松子夫人の姉妹の優雅な生活が微に入り細に入り書かれることになる。
しっかし、どういう話になるかわかってはいても、先を読みたかった。リアルタイムでしかも人物設定がそのものずばりのような生々しさだったために中断されてしまったが、このテーマを谷崎がどういうふうに書くか、読んでみたかった。こんなにあせって書かずに、もう少し時間を置いて熟成させてから書けばよかったのにと思う。
久しぶりに谷崎の作品を読んで、谷崎熱が復活してきた。ネットを探していたら、『秘本谷崎潤一郎』)という本にぶつかった。ネットで販売しているのだが、この作者の本の1つ、『聞書谷崎潤一郎』は持っている。『秘本』にはその後のことが書かれているらしい。1巻1万円全5巻の大作だ。欲しい!と思ったが、ただでさえ部屋が狭くなって困っているこのタイミングでそんな本を買ったら、マサノリに叱られるだろうなぁと思い、我慢している。







