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2002 年 2 月 5 日

その59 彼の涙

カテゴリー: 創作 — みよこ @ 12:00 AM

涙の話第3弾。
彼女は仕事の帰り、疲れを癒すためのちょっとした贅沢として、地元の駅まで座っていけるホームライナーに乗った。あいにく空いている席は少なかったが、一人の男性が、「ここ、空いてますよ」と自分の隣を指差した。話をするうちに彼と彼女は偶然にも会社も自宅も近くだということがわかった。
それから2~3日後の朝、今度はバス停で会った。会社の最寄駅も同じなので、ずっと話をしながら出勤した。彼女はその後、偶然を装ってバスの時間を合わせるようになった。
ある日彼女の会社に彼から電話があった。
「今日、帰りに食事しない?」
断る理由はない。彼女はOKした。
電車を乗り換えるとき、彼は別の女性を彼女に引き合わせた。彼の婚約者だった。彼女は平静を装い、穏やかな微笑みで挨拶した。婚約者も同じく穏やかに挨拶した。
電車を降りるとき、彼は婚約者に彼女と食事をすることを伝えた。
彼女ははっきりいって迷惑だった。食事などしたくはなかった。もう分かったから、解放して欲しいと思っていた。が、彼は自分が思わせぶりなことをしたことを思い、きちんと説明したかったのだと言った。彼女からすれば食事どころではない。でも、彼女はこの件で彼の意図はわかったし、納得した。
それからしばらくして、夜、彼女の自宅に彼から電話があった。泣いている。婚約破棄されたのだ。問わず語りに彼が言う。「自分のことを信じてもらえなかった」数日前の件が尾をひいていることは明らかだ。彼女もその日のことを思い浮かべた。婚約者の気持ちになれば当然といえば当然だ。ある日突然見知らぬ女性を紹介されて、目の前でその女性と食事に行くと言われたのだ。おだやかなわけがない。その理由をいくら説明したところで、彼に浮気心があったことは確かで、これまたますます彼女の態度を硬化させたことは容易に想像がつく。
彼はビシビシ泣きながら、彼女に言った。「(自分の)気持ちが落ち着いたら、僕と付き合ってくれる?」
彼女にはもうさらさらそんな気はない。でも、ここでつっぱねてもかわいそうと思い、彼女は「そうね」と答えた。もらい泣きをしながら。
ここで彼はすかさず、「でも、今は無理だけど…」
彼女は心の中で毒づいた。「いまさら付き合う気なんかないわよ」
ここで、彼女は軽く「そんな気はないくせに」と答えればよかったのかもしれない。でも、とてもそんな軽口が言える間柄ではなかったし、そんなこと頭に浮かばなかった。ただ、ひたすら彼の愚痴を聞いてあげることしかできないなと思っているだけだった。なぜなら、彼女はその数ヶ月前大失恋をし、その痛手からようやく回復したところだったからだ。だから、心の中で思ったことは口に出さず、やはり「そうね」と答えた。彼は2時間ほど話した後、ようやく落ち着いたのか、電話を切った。
その後彼女は別の事情で会社を辞めた。彼と彼女の交流はぷっつりと切れた。

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