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わいせつ猥褻)とは、事実概念としては、社会通念に照らして性的に逸脱した状態のことをいう。法的概念としてのわいせつとは、判例によれば、「いたずらに性欲を興奮又は刺激させ、かつ普通人の正常な性的羞恥心を害し、善良な性的道義観念に反する」と定義される。具体的にわいせつとみなされる人体の部分は、陰部陰毛肛門及び女性乳首である。わいせつ性を帯びた物のことを「わいせつ物」、わいせつ性を帯びた行為を「わいせつ行為」という。


ここでは、法的概念としてのわいせつ(猥褻)を中心に記述する。



概説

わいせつ猥褻)という概念は、法的に定義された概念であるものの、時代と場所を超越した固定的な概念ではない。何かがわいせつであるか否かは、その時代、社会、文化に対応した一般人のに関する規範意識を根底に置きながら、社会通念によって具体的に判断されるものである。

このような判断を下すに際しては、全体的考察方法か部分的考察方法か、芸術性・科学性との関係、周辺の事情を考慮するか否か、など様々な点に留意する必要がある。



刑法


「わいせつ」概念を含む犯罪


概説

刑法においては、従来は「猥褻」と表記されていたが、1995年平成7年)の刑法の口語化改正により「わいせつ」と表記が改められた。

また、刑法においてわいせつな行為とわいせつ物(行為の模倣)とがきびしく区別されずに扱われていることに対する批判もある(丸谷才一編『四畳半襖の下張裁判・全記録』朝日新聞社、1976年)。



公然わいせつ罪

刑法第174条(公然わいせつ)
公然とわいせつな行為をした者は、6ヶ月以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。


わいせつ物頒布罪(わいせつ物陳列罪)

刑法第175条(わいせつ物頒布)
わいせつな文書、図画その他の物を頒布し、販売し、又は公然と陳列した者は、2年以下の懲役又は250万円以下の罰金若しくは科料に処する。販売の目的でこれらの物を所持した者も、同様とする。


強制わいせつ罪

刑法第176条(強制わいせつ)
13歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いてわいせつな行為をした者は、6か月以上10年以下の懲役に処する。13歳未満の者に対し、わいせつな行為をした者も、同様とする(性別は問わない)。
刑法第178条(準強制わいせつ)
人の心神喪失若しくは抗拒不能に乗じ、又は心神を喪失させ、若しくは抗拒不能にさせて、わいせつな行為をした者は、第176条の例による。
刑法第181条(強制わいせつ致死傷)
第176条若しくは第178条第1項の罪又はこれらの罪の未遂罪を犯し、よって人を死傷させた者は、無期又は3年以上の懲役に処する。


保護法益

公然わいせつ罪及びわいせつ物頒布罪の保護法益は社会的法益である善良な風俗であり、強制わいせつ罪の保護法益は、強姦罪同様、個人的法益である個人の性的自由である。このように、これらの法質は異なるものであり、前者においては被害者(わいせつに感じた者。それがわいせつであるか否かは別論)の有無は論じられないが、後者においては具体的な被害者が存在する。このため、強制わいせつ罪が成立しない場合であっても、公然わいせつ罪に問われる場合がある。また、後者においては、わいせつ行為の相手方の同意があれば、被害を受けた者はいないことになるので、原則として犯罪は成立しない(ただし、わいせつ行為の相手方が13歳未満の未成年者の場合のときなど、パターナリスティックな点からの例外もある)。

伝統的通説は前者の保護法益を性道徳・性秩序の維持とするが、最近では、公衆の性的感情の保護、ニューサンス(生活妨害)の禁止、パンダリング(特に商業目的の頒布、広告)の禁止、性的自己決定の自由、青少年の保護、女性解放、など様々な観点から論じられている。なお、この内のいくつかは相互に関係しているとの指摘がなされたり、併合して主張されることもありうる。



『表現の自由』とわいせつの関係

わいせつ的表現と日本国憲法第21条で保障される表現の自由との関係については学説上も争いがあり未だに定説がない。

表現の自由が特に重要な人権とされるのは政治問題等に関する自由な言論活動が民主政治の基盤であることを強調する論者は、多くは、営利的表現活動の一部にすぎないわいせつ的表現は憲法21条で保障されるとしても刑法175条により制約することは許されるとする。


これに対して、表現の自由全体に及ぼす萎縮効果を重視する論者を中心に、刑法175条が過度に広範な規制であるとして日本国憲法の精神の自由に違反するとする見解もある。


判例は、一貫して刑法175条が憲法21条に違反しないとする見解をとっている(最高裁判所大法廷判決昭和32年3月13日刑集11巻3号997ページ(チャタレー事件)及び最高裁判所大法廷判決昭和44年10月15日刑集23巻10号1239ページ(悪徳の栄え事件))。


一方、学界では、相対的わいせつ概念の法理が注目されている。これは、わいせつ物の規制は一応は妥当であるとしつつも、思想性や芸術性の高い文書については、わいせつ性が相対化され、規制の対象から除外されるという理論である。田中二郎判事が初めて提唱した。


尚、“わいせつ”の何たるかについて正面から論じた裁判官は未だにいない。


ただ、古来から日本国民の大多数が信仰している仏教の教えという社会通念で、わいせつ行為は戒律で悪業(罪)という性行為非公然原則なので、法律でもわいせつな行為を慎む条文を書いたと思われる。



「わいせつ」をめぐる最高裁判例の推移

  • チャタレー事件、最高裁大法廷判決、1957年(昭和32年)3月13日、刑集11巻3号997頁

    • 「わいせつ文書」に当たるかどうかは、法解釈の問題であり、その判断は裁判官に委ねられている
    • わいせつ三要件

  •  通常人の羞恥心を害すること
  •  性欲の興奮、刺激を来すこと
  •  善良な性的道義観念に反すること


  • 「悪徳の栄え」事件、最高裁大法廷判決、1969年(昭和44年)10月15日、刑集23巻10号1239頁

    • 芸術的・思想的価値のある文書でもわいせつの文書として取り扱うことは免れない


  • 「四畳半襖の下張」事件、最高裁第二小法廷判決、1980年(昭和55年)11月18日、刑集34巻6号432頁

    • わいせつ性の判断に当たっては、文書全体としてみたとき、読者の好色的興味に訴えるものであるかどうか否かなどの諸点を検討することが必要で、これらの事情を総合し、その時代の健全な社会通念に照らして、チャタレー事件で示したわいせつ三要件に該当するといえるかどうか判断すべきである。
    • 本判決で、全体的考察という手法を取り入れるとともに、その時代の社会通念に照らして判断することを要求することにより、わいせつ概念の厳格化を図ったものとされている。



わいせつな行為とみだらな行為

報道では、「わいせつな行為」という言葉と同時に「みだらな行為」という言葉も使っている。「わいせつな行為」は性交渉を結ばなかった場合、「みだらな行為」は性交渉を結んだ場合という説もあるが、実際には同じ事件について一紙は「わいせつ行為」と報道する一方で、別な一紙は「みだらな行為」と報道されている事は極一般的であり、事実上の同義である。

実際、『広辞苑』では「わいせつ」の意味は「みだらなこと」と書かれており、「みだら」の意味は「わいせつ」と書かれている。

関連項目


出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

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