メンソレータム
ここにあるメンソレータムはなかなかである。
ここはおじいちゃんの部屋で、おじいちゃんは去年の8月に死んだ。そしてわたしは今、おじいちゃんの部屋に住んでいる。時々住んでいるだけだからそれほどでもないけれど、それでも半年も経てばおじいちゃんのにおいも徐々に消えていく。それにふと気がつくときもあるし、気がつかないときもある。
唇が痛い。荒れた唇に薬を塗ろうとしたが、薬が見あたらない。部屋を見渡すと、メンソレータムがあった。ふたをあけてつける。
……穴が開いている。メンソレに穴が開いている。実家の一部のメンソレと同じである。母の仕業。耳がかゆい母は綿棒にメンソレをつけるため、綿棒をさすのだ。
そして、その穴のまわりには、おおきくてごつい指の跡があった。あったかくてやさしくてがんこなおじいちゃんの指だ。
そこにわたしは参加した。指をさし込み、指紋を付けた。