ドーナツ
クールな女の人と、うしろにちっこい女の子が入店。女の子は3〜4歳といったところ。
お母さんたる人は、アイスコーヒーを、娘たる子は、アップルパイと肉まんとドーナツを食す。始終ふたりは静かで、女の子はお行儀もいい。女の人はどうも風邪らしく、水をもらい、薬をのむ。黒のセーターとブーツカットのローライズのジーンズとの間から背中が出ている。
「おみじゅ?」
肉まんをもちながら訊ねる女の子、女の人はうなづく。女の人は薬を飲み終えると、長い髪を少しかきあげ、物憂げそうに窓の外をみやった。
しばらくすると、完食した女の子が女の人に何か訊ねる。女の人はうなづくと、女の子はぴょんと椅子をおり、何かを持って、キャッシャーまで走っていく。ポイントカードで景品をもらったよう。ぺこっと頭をさげ、また席まで走り、ぴょんと椅子に座った途端だった。
「ばんざーい」
それはそれは大きな声で店中に響き、客がいっせいに彼女のほうを向く。彼女は尚も歓喜の声をあげている。
「ばんざーい、ばんざーい、ばんざーい」
彼女は立ち上がらんばかりに手を精一杯天にむかってふりあげる。
女の人は驚くこともなく、しかることもなく、またやさしすぎることもなく、
「よかったわね、でも静かにしなくちゃ」
女の子はひとしきり「ばんざい」をした後、静かになった。それを見て取った女の人はお皿を片付け、女の子をトイレにつれていった。
トイレから出てくると、女の子は、ぽんぽんはねたり、とことこすすんだり、スキップのようなステップを踏んだりして、歩いていた。まるででたらめに動かされているぬいぐるみのようだった。
そしてキャッシャーのところまでやってくると、ぴたっと止まり、90°回ってキャッシャーのほうを向いて、
「どうもありがとうごじゃーます」
と、これまたおおきっな声でお礼を述べた。「…、いいえ」と面食らった店員にお辞儀すると、でたらめなぬいぐるみはぴゅーと母のもとへ走っていた。
わたしは、それを静かに見つめていた母たる女の人に、ひどくおおきなものを感じた。自分のちいささを感じた。